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ある王国の片隅にある小さな道場──
この道場には、三人の若き女性武術家がいた。
一人は長女。
ボクシングを得意としており、拳による途切れぬラッシュはまさに豪雨。
人々からは“レイニーフィスト”と恐れられている。
もう一人は次女。
空手やテコンドーをマスターしており、特に蹴り技には定評がある。
彼女もまた“キラーフット”の異名を持つ。
そしてもう一人はというと──
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:50:41.79ID:Yd1Bv2/7O
俺だ
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:51:03.50ID:k3UdyWxoi
私だ
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:53:07.70ID:FDH9ZeWQ0
長女「さぁ、私の顔を殴ってみなさい!」
シンデレラ「うぅっ……」
長女「殴るのよ、シンデレラ!」
シンデレラ「う、うぅっ……!」
長女「さぁ!」
シンデレラ「ダメです……殴れません……!」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:57:30.94ID:FDH9ZeWQ0
彼女は長女や次女とは血の繋がりはないが、
師匠である継母によって姉二人と同じように修業を施された。
彼女もまた期待に応えるため、懸命に努力した。
彼女の練習量は姉二人を遥かに上回った。
練習すれば汗をかく。
汗が乾くと、塩となる。
塩には空気中の汚れが付着し、灰色の塩となる。
彼女は全身が灰色の塩まみれになるほどの練習を、毎日のようにこなしていた。
この努力を称えた人々は、彼女を“シンデレラ(灰かぶり)”と呼ぶようになった。
だが、彼女には重大な欠点があった──
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:59:25.07ID:FDH9ZeWQ0
長女「殴るのよ!」
シンデレラ「で、できません……!」ガクッ
長女(今日もダメみたいね……)
次女「シンデレラ」
シンデレラ「はいっ!」ビクッ
次女「アンタもさ、なにも健康体操のつもりで格闘技やってるワケじゃないっしょ?」
次女「毎日毎日あんなに真っ黒になってさ」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:06:23.11ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「もちろんです! 強くなるために……」
次女「だったらさ、殴らなきゃ」
次女「今は練習だからいいけど、本当に戦わなきゃいけない時が来たらどうすんの?」
次女「練習で姉様も殴れないのに、その時が来れば戦えるとか思ってんの?」
次女「人間、練習でできないことが突然本番でできるほど、器用にできてないんだよ」
次女「もし戦えなきゃ、アンタ死んじまうかもしれないんだよ?」
シンデレラ「わ、私は──」
道場に、三人の師匠である継母が入ってきた。
継母「シンデレラッッッ!」
シンデレラ「は、はいっ!」ビクッ
継母「キサマ、まだ姉どもを殴れぬのかッッッ!」
シンデレラ「すいません……!」
長女「しょうがないわよ、お母様……。怒らないであげて」
継母「道場では母でなく師匠と呼べといってあるだろうが! たわけがッッッ!」
長女「申し訳ありませんっ! 師匠っ!」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:15:23.62ID:FDH9ZeWQ0
継母「シンデレラよ……」
継母「格闘技とはしょせん他者を制圧するための技術ッッッ!」
継母「つまり、人を殺すために使うのが正しい使用法だということだ!」
継母「徒手とはいえ、本質は剣術や槍術となんら変わらぬッッッ!」
継母「だが、熟練した剣士ならば──」
継母「その剣で人を生かすこともできる!」
継母「なぜか!?」
継母「彼奴らは、正しい使用法を知っているからだッッッ!」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:21:20.24ID:FDH9ZeWQ0
継母「剣は人を殺すモノだと熟知しているからこそ、剣で人を生かせるのだッッッ!」
継母「格闘技も同じこと!」
継母「人を殴ることも知らぬキサマが、どうして格闘技を正しく使える!?」
継母「正しい使用法を知らぬキサマが格闘技を身につけたところで──」
継母「遠からず格闘の魔道に堕ちることは明白!」
継母「そうなれば我が道場の名声も地に堕ちる!」
継母「殴れぬなら──今すぐこの道場から消え失せろッッッ!」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:24:28.48ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「イヤです! 私は強くなりたいのです!」
継母「ならば殴れッッッ!」
継母「このワシを殴ってみせいッッッ!」
シンデレラ「……できま、せん!」
継母「できぬか!」
継母「ならばこの場で、ワシがキサマを殺してやるわッッッ!」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:31:23.89ID:FDH9ZeWQ0
ドズゥッ!
継母のボディブローが、シンデレラの腹の奥深くへとめり込んだ。
シンデレラ「──げぇぇっ!」ビチャビチャ
長女&次女「!」
継母「どうだ、胃液は苦かろう。ワシが憎かろう」
継母「ならば、打ってこいッッッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
シンデレラ「で、できま……せ、ん……」ゲホゲホッ
ドゴォッ!
継母の蹴りが、シンデレラの顔面に叩き込まれた。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:34:49.37ID:FDH9ZeWQ0
継母「シィィィッ!」
ズガァッ!
継母のヒジ打ちが、シンデレラの頭部に突き刺さった。
継母「ぬぅぅぅぅんっ!」
継母がシンデレラを持ち上げ、豪快に床に叩き落とす。
ドゴォンッ!
継母「立ていッッッ! 立って、ワシを殴ってみせいッッッ!」
ドガッ! ドゴッ! ドギャッ!
床に転がるシンデレラを、何度も踏みつける継母。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:40:20.40ID:FDH9ZeWQ0
長女「師匠、止めて下さいっ!」ガシッ
次女「死んじゃうってば!」ガシッ
継母「ぬぅ……ッッ!」
継母「ひよっ子どもが、はなさんかァッッッ!」
ブオンッ!
娘たちの制止を強引に振りほどく継母。
継母「ぬぅぅ……もう立てぬかッッッ!」
シンデレラ「うぅ……」ピクピク
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:43:50.37ID:FDH9ZeWQ0
継母「シンデレラよ」
継母「罰として、今日キサマはメシ抜きだ!」
継母「この道場を全て一人で清掃しろ」
継母「──いいなッッッ!」
シンデレラ「は、はい……」
継母「では本日の鍛錬はここまで!」
継母「長女と次女はメシの支度をせいッッッ!」
長女&次女「はいっ!」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:50:25.12ID:FDH9ZeWQ0
道場の食卓──
山盛りの肉と野菜が、みるみるうちに消えていく。
ガツガツ…… ムシャムシャ……
長女「お母様」
継母「なんだ」
長女「今日は少しやりすぎだったのでは……」
継母「ほう……?」
次女「アタシもそう思う」
次女「なにもあそこまで殴る必要はなかったよ」
次女「人を殴れないからって、だれかに迷惑かけるってワケでもないしさ」
継母「…………」ピクピクッ
バンッ!
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:53:21.08ID:FDH9ZeWQ0
フワァッ……
継母がテーブルを叩くと、衝撃で卓上の料理が天井近くまで浮き上がった。
長女&次女「…………!」ゾクッ
継母「人をまともに殴れぬ格闘家など、いつ爆発するともしれぬ爆弾のようなもの……」
継母「あの程度の荒療治は当然だッッッ!」
次女「だけどさ、死んじゃったら元も子も……」
継母「死ぬゥ……?」
継母「フハハハハハハハハハハッッッ!」
継母「メシを喰ったら、あとで道場を覗いてみるんだな」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:56:32.02ID:FDH9ZeWQ0
夕食後、長女と次女は道場をそっと覗いた。
すると──
シンデレラ「はぁっ! えいやっ! ──はぁっ!」
ブンッ! ビュッ! バッ!
道場はすでに掃除されており、いつものように鍛錬をこなすシンデレラがいた。
長女(あれだけお母様に殴られて──もうあそこまで回復しているというの!?)
長女(なんという回復力! なんという潜在能力……!)
次女(たしかに……もし人を殴ることを知らないままシンデレラが世に出たら──)
次女(ヤバイことになるかもしれない……)
この時、二人は心を鬼にすることを決意した。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:59:39.07ID:FDH9ZeWQ0
翌日──
シンデレラ「おはようございます、お姉様」
長女「…………」
ゴキィッ!
長女のアッパーが、シンデレラの顎を突き上げた。
シンデレラ「が……っ!?」
長女「武術家にとって、不意打ちが卑怯にならないことくらいは承知よね?」
長女の豪雨と称されるラッシュが、シンデレラを襲う。
ドガッ! バキッ! メキッ! ガゴッ! ドゴッ!
長女「反撃するのよ、シンデレラッッッ!」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:05:23.37ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(なんで、いきなり……!)
シンデレラ(でもお姉様の目は本気だ……やらなきゃ、やられる!)
シンデレラが右手を握る──が、打てない。
長女「どうしたの!? 打つのよっ!?」
シンデレラ(う、打てない……!)
ズガッ! ガスッ! ズンッ! ドカッ! バゴッ!
数百の連打を浴びたシンデレラであったが、結局一発も反撃することはできなかった。
シンデレラ「…………」ズルズル…
長女「……失神したみたいね」
ドサッ……
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:13:22.20ID:FDH9ZeWQ0
次女「起きな」
ザバァッ!
失神しているシンデレラに、水が浴びせられた。
シンデレラ「──はっ!」
シンデレラ「えぇと、私は……?」ズキッ
シンデレラ(たしかお姉様の豪雨を浴びて、気絶してしまったのね)
シンデレラ「お、起こしてくれてありがとう……お姉様」ゲホゲホッ
次女「ありがとう? なにいってんだい、アンタ」
次女「次はアタシだよ」
シンデレラ「!」
ゴッ!
次女のヒザ蹴りが、シンデレラの鼻にめり込んだ。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:19:23.48ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「あうぅあ……」ドサッ
次女「気絶したか……」
次女「何度だって繰り返すよ……アンタが殴れるようになるまでな」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:23:55.02ID:FDH9ZeWQ0
この日から、継母と姉二人による執拗な攻撃が始まった。
継母「来いッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
ドゴォッ!
長女「さぁ、日頃の練習の成果を今こそ解き放つのよ!」
ベキィッ!
次女「少しは反撃してみたらどうだい!?」
バキィッ!
昼夜を問わず、三人はシンデレラに襲いかかった。
しかし、いくら攻撃を与えても、シンデレラの闘争心に火が灯ることはなかった。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:28:21.52ID:FDH9ZeWQ0
長女「シンデレラは……?」
次女「ぐっすり眠ってるよ」
長女「今日もダメだったわね……」
次女「うん……」
長女「ハッキリいってあの子の潜在能力は、私たちの遥か上をゆくわ」
長女「加えてあの練習量……強くないハズがない」
長女「事実、いくら私たちが攻撃しても、数時間も経てば動けるようになっているもの」
次女「うん、恐ろしいまでの才能だよ」
長女「だからこそ──」
長女「今のうちに、殴ることを知っておかないと……とんでもないことになる」
次女「自分の持ってる武器の威力も知らずに、振り回すことになりかねないしな……」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:30:39.21ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラは気配を殺し、彼女らの会話を聞いていた。
シンデレラ(ごめんなさい、お姉様たち……)
シンデレラ(私にも分かっているの、このままじゃいけないって)
シンデレラ(でも……)
シンデレラ(やっぱりダメなの……!)
シンデレラ(ごめんなさい……!)ダッ
そんなある日のこと──
国中に次のようなお触れが出た。
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来たれ強き女ども!
一週間後、城にて王子主催による武道会を開催する。
王子は自分の強い種を受け入れるに相応しい、強い女性を探している。
王子に勝利できた女性には、王子と結婚する権利を与える。
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続きは明日掲載するとして、
義母と義姉がいい奴なシンデレラは新鮮だと思った次第。